書評…これからの「正義」の話をしよう…共通概念の無いものに対する答え
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第1章 正しいことをする
第2章 最大幸福原理──功利主義
第3章 私は私のものか?──リバタリアニズム(自由至上主義)
第4 章 雇われ助っ人──市場と倫理
第5章 重要なのは動機──イマヌエル・カント
第6章 平等をめぐる議論――ジョン・ロールズ
第 7章 アファーマティブ・アクションをめぐる論争
第8章 誰が何に値するか?──アリストテレス
第9章 たがいに負うものは何か?――忠誠のジレンマ
第10章 正義と共通善
謝辞
原注
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本書は2010年に「革命的」とも言うべき一大ムーブメントを起こしたものです。
ハーバード大学教授マイケル・サンデル氏が、自身が大学で講義する政治哲学の授業を書籍化した「これからの「正義」の話をしよう―今を生き延びるための哲学」がそれで、2010年4月から6月にかけて、「ハーバード白熱教室」と題してNHKで放送されていたようです。
本書は「正義」について書かれた政治哲学書です。「正義」とか「哲学」だとかと言うと何か小難しい事が書いてあるのではないかと思う人もいるかもしれないですが、実際に小難しいですよ(笑)
確かに、「正義とは何か」や「公平さとは何なのか」、また、私達にとって「何が正義なのか」、「正しいとはどう言う事なのか」と言う問いには簡単には答えられるものではありません。しかし、サンデル教授は解りやすい例えを用いて、最も基本的で重要な問題を様々な角度から捉え、「正義」や「公正さ」を説いています。
例えば、2004年夏にメキシコ湾で発生したハリケーン・チャーリーは22人の命を奪い、120億ドルの被害をもたらした。その直後、被災地であるオークランドのガソリンスタンドでは1袋2ドルの氷が10ドルで売られ、通常250ドルの家庭用発電機は2000ドルの値札がつけられました。当然、これは人の弱みにつけこんだ「便乗」値上げだとして批判が起こります。しかし一方で価格とは需要と供給によって決まるものであり、法外な価格も必要な商品の増産を促すインセンティブになるのだから自由市場への干渉は行うべきではないという意見もあります。果してどうすることが正しいのでしょうか。
他にも、「5人を助けるために1人を殺すのは正しいのか?」や「遭難して食料が尽きた状態で、3人が生き延びるために体調を崩した1人を殺し食べるのは正しいのか?」、また、「大学入試でのマイノリティに対する直接の優遇措置は公正なのか?」など。
幸福、自由、美徳の3つの観点から「正義」に迫っています。また、本書のような難しいテーマでも面白くし飽きさせない理由は、サンデル教授が次々と繰り出す具体例が身近な上に、「正義」へとアプローチする姿勢が真摯であり、彼の言葉が明確であるからでしょうかね。
自分としては「正義」であっても人にとっては正義ではなかったり。視点を変えると認識はガラッと変わります。ウソは単純に評価をすれば「悪」ですが、それによって正当な形で救われる人がいるとすれば「正義」かもしれません。それだけ、物事は一つの視点からでは評価できないという事です。
正義に万国共通の共通概念はないので、自分自身の「正義」が他の人の「正義」と必ずしも同じであるとは限りません。だからこそ、一つの視点に固執せずに、色なん視点から物事を見ることが必要です。
その為には色んな環境に身を置き、反対意見を持った人とも付き合い、自分とは違った立場にいる人と付き合うことかな。