映画評…英国王のスピーチ…「悩みに立ち向かう姿勢」が人間の本質
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幼少時の恐怖を抱えたまま大人になった“バーティ”ことジョージ6世は現在の女王エリザベス2世の父である。自己嫌悪の塊でありながら短気な面も持ち合わせた複雑で繊細なこの人物を『シングル・マン』のコリン・ファースが好演。常に夫を支える頼もしいエリザベス役にヘレナ・ボナム=カーターが気品と極上のユーモアをもたらし、さらに、対等で親密な関係こそが治療の第一歩と信念を持つローグに名優ジェフリー・ラッシュ。この最高の布陣でメガホンをとったのは「第一容疑者」など主にTV畑で手腕を発揮してきたトム・フーパー。ナチス・ドイツとの開戦前夜、まず自分自身の劣等感と闘った国王に拍手喝采せずにはいられない。
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英国王室の国王が、王族のプライドと葛藤しながらも自分のコンプレックスと戦って、克服していくストーリーです。これはもう「あがり症の王様」って設定が秀逸で、実話なんですが、よくぞ取り上げたという感じでした。
職業が「公人であること」っていうのはもの凄い大変なことですね。
普通の対人恐怖症は「笑われる」ことを気に病みます。うまく話せない事によって「彼が気の毒だ」という視線が、さらに彼を傷つけてしまい、大観衆の視線から先祖の肖像画までが脅威となって迫ってくる。お兄さんは早々と王室を出たため、自分は転職も出来ない。脅威の対象だった一般市民の医者との間に、次第に友情が育ってくるところが見所です。。
映画は結果が予想できる展開を、極めて淡々と進んでいきました。
こういった「人生の不安」「自分への不安」に対しては特効薬はなく、彼のようにただただ勇気を持って前進していくしかないのだと思いました。王室であろうと、大金持ちであろうと、どれだけ大金や権力を振りかざしても、治せないものは治せない。病気のほとんどはそうですよね。
立場や今の位がどうであれ、病気で亡くなるときは皆平等に亡くなります。
そこには人間の本質があります。
それにしても、今年のアカデミー賞の作品賞を争っていた「英国王のスピーチ」と「ソーシャル・ネットワーク」が、いずれも「人とのコミュニケーション」をテーマにしているというのは、何かのメッセージですかね。「ネットを通じてネットワークを作れるシステムをつくった男」と「「本音で語り合える存在」がいないことに苦しんでいる男」、それぞれの物語。
どんなにシステムが進化して時代が進んでも、他者とのコミュニケーションというのは、人間にとっての「悩みの種」であり続けるのでしょう。
噛めば噛むほど味が出てくる、そんな映画だと思います。